車2

ふだんは、できるだけ効率よく動くタイプです。
仕事もプライベートも、なるべくムダを省いて、決めた予定通りに物事を進めたい。
広告の仕事をしていると、〆切や進行管理のプレッシャーもあるし、自然とそういう習慣になっていきました。

でも最近、あるドライブがきっかけで、「効率の外側にあるもの」の価値を思い出した気がします。
それは、実家に帰る道中での、ちょっとした寄り道の話です。

脇道に入ってみた

その日は、実家に久しぶりに帰る予定でした。
天気は快晴。時間にも少し余裕があったので「たまには下道でのんびり行くか」と思い立ち、ナビを切って車を走らせました。

幹線道路を進んでいると、ふと右手に細い脇道が見えました。
見慣れない商店街の入り口があって、昭和の名残を感じさせるアーケードの看板が目に入ったんです。
なんとなく気になって、吸い込まれるようにそっちへハンドルを切りました。

道幅は狭く、両側には昔ながらの個人商店や古いアパート。
パン屋からは焼きたての香ばしい匂いがして、通学帰りの中学生が自転車を押しながら笑い合っている。
「こんな場所がまだ残ってたんだな」と、ちょっと感動しました。

こういう道を走ると、不思議と落ち着くんですよね。
知らない土地なのに、なぜか懐かしい。
子どものころ、自転車で知らない路地を探検したときの気持ちを思い出しました。

予定を外れて見つかった「好きな場所」

さらにその先、川沿いを走っていたら、古い看板が目に入りました。
自家焙煎コーヒーと書かれた、ちょっとレトロなカフェの看板。
反射的にウィンカーを出して駐車場に入りました。

外観は木のぬくもりがあって、テラス席には一組の親子と、柴犬がのんびり昼寝している。
メニューにはこだわりの豆の説明が丁寧に書かれていて、店主の思いがじんわり伝わってくるようでした。

ブレンドコーヒーと自家製サンドイッチを頼んで、テラス席に腰を下ろしました。
目の前には静かな川、遠くに子どもたちの声。
スマホをポケットにしまって、ただその時間に身を委ねてみたら、胸の中がすーっと軽くなっていくのがわかりました。

なんというか、「ああ、こういう時間が足りてなかったんだな」と思いました。
SNSも、予定も、誰かの評価も関係ない時間。
ただ、「今ここにいる自分」に戻るための場所が、たまたまこの道の先にあったんです。

ときには、道を間違えてみるのもいいものです。
予定通りじゃないからこそ、出会える風景や、気づける感情がある。
あの日の寄り道が、今も頭の片隅に静かに残っています。